問題は解決しない

日本の社会問題は色々ありますが、現状では少子高齢化問題が最も重大なものの一つでしょう。

この問題を測る上での主要な指標に「合計特殊出生率」があります。

この値が2.01であれば人口は安定的に推移するとされますが現状では1.4前後です。

それでも05年時点の1.26よりは改善しています。とはいえ低水準であることには変わりありません。

人口の減少や年齢構成の歪みはこの国の多くの問題の根源となっていますが、その割には政府の対策が小規模で遅いと思いませんか?

 

この問題に限らず、政府の対策が不十分であることをもって「本当にやばかったら政府は本腰を入れて対応するだろうから、今はまだ大丈夫ということなんだろう」ととらえてしまう人がいます。

また、以前経産省の若手官僚が日本の問題点をまとめた資料を作成したとき、「官僚が危機感を持っているということは問題を解決する策をとるだろう」と考えた人もいたと思います。

 

でも答えは否です。

 

なぜなら、当の官僚たちも問題を解決する方法がわからないからです。

ただし、推測することはできます。しかしその推測は、そこらへんの一般人のレベルと変わりはないのです。

 

僕もかつては、政府組織や大きい自治体レベルであれば、政策ひとつ実行するにも深い見識から導き出された、凡人では理解できないような理論を基にしていると思っていました。

しかし実際入庁すると、何のことはなく、そこらへんの一般人が考えるレベルの発想で政策を行っていたのです。

 

これは別に公務員の頭が悪いと言っているのではありません。

「頭がいい」と言ってもしょせん同じ人間なので、一般人レベルの発想しかできないのは当たり前なのです。

チンパンジーにも頭の良いチンパンジーと頭の悪いチンパンジーがいると思われますが、しょせんチンパンジーの範囲内なのです。

 

さらに言うと、複雑な社会問題というのは現実の範囲内で解決法があるかどうかすらわかりません。

少子化問題であれば、教育無償化をするというような対策が思い浮かびますが、教育にお金がかからないドイツやイタリアも日本と同じくらい合計特殊出生率が低いため、解決策になるかわかりません。

北欧のマネをしようにも、日本で通用するかどうかはわかりません。

このように、複雑な問題の解決策というのは「やってみなければわからない」上、イデオロギーの問題も孕むので、なかなか実行できないのです。

なぜなかなか実行できないかというと、政策を実現するためにはお金が必要になるからです。

お金は、要は財政部局を説得しなければならないのですが、複雑な問題であればあるほど、説得が難しくなり、中途半端な対策になってしまうわけです。

 

率直に言って、今の行政は財政部局が権力を持ち過ぎです。

僕も地方公務員だった頃、とある貧困家庭への扶助事業をやっていたのですが、財政担当に事業内容をさらっと説明したところ、「こんなのやる必要あるんですか?」 と言われてしまいました。

貧困家庭への扶助が必要かどうかなんて、はっきり言ってその人の価値観次第で意見が変わりますし、必要性の理屈をいくら組み立てても結局は価値判断に行き着きます。

なので、これは何の権限もない役人が判断するのではなく、有権者の支持を得ている政治家が判断するべきことなのです。でも現状は、財政担当の価値観次第で大きく実行可能性が左右してしまうのです。

彼らは当然、お金をできるだけ使わせないようにするのが仕事ですので、政策効果に突っ込みを入れまくり挫折に追い込もうとします。

別の記事でも話したように、役人は専門知識がない上に、複雑な問題の解決策なんてものは最終的に価値判断なわけなので、財政部局への説明に長い時間を要し、場合によっては説得できず廃案となります。

 

このように、専門知識0の事業担当部局と、問題解決よりお金を使わせないことばかりを重視する財政部局の間で何ヶ月も言葉遊びばかり行われているので、対策は常に遅れ、規模は不十分。

そのため、問題は解決しないのです。